ライブ後の撤収作業は忙しい。
今回は小さなライブハウスでの開催もあり控室も少ない。次のバンドのためにもなるべく早く撤収しないといけなかった。メンバーが先に外に出た後、最後に忘れ物がないか一通り確認する。
『かっこよかった』
目を輝かせながら自分の気持ちを伝えようと必死に言葉を繋ぐ丈の姿を思い出す。受験勉強で忙しくてずっと誘えなかった丈をようやく誘えたのが嬉しくて、ようやく丈の前で歌う事が出来たのが嬉しくて、今日のライブは一段とコンディションが良かった。
手を伸ばし熱狂の渦を描く観客から少し離れた位置に見つけた丈は同じように手を上げて楽しんでいるわけでもなく、ただこちらを見て立っていただけだった。
やっぱり丈には難しかっただろうか。ライブハウスは指定された席があるわけでもない。興奮した観客は時に予想以上の行動をすることも例外ではない。
だけれど少し、悲しかった。丈を楽しませるつもりが丈を怖がらせてしまったように見えてしまった。同時に、拒否をされてしまったような気分だった。
控室でタケルと一緒にやってくるのが怖かった。謝った方が良いだろうか。単独ライブじゃ時間が長いからと思ってフェスに誘ったが、逆効果だっただろうか。丈は今、どう思ってるのだろうか。
そんな気持ちを全て払拭して、必死に伝える丈の姿を見ていると安心のあまりに笑ってしまった。
それと同時に嬉しかった。丈がかっこいいと思ってくれたことが、丈がヤマトの音楽を肯定し、褒めてくれたことが、嬉しくて堪らなかった。
「ヤマト!」
ドアの向こうから突然聞こえた声にヤマトは我に返る。メンバーの一人が心配して様子を見に来てくれていたみたいだった。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ。大丈夫。すまん」
駆け足で控室を出ると忙しく動き回るスタッフや他のバンドに挨拶をしながら外へ出た。
ヤマトにとって今日という日は、特別なライブになっただろう。
すっかり暗くなった空に冷たい風が吹いても、奥底から鳴り続ける鼓動は止むことはなかった。