熱狂と鼓動 - 1/3

 丈は今、史上最高の興奮を味わっていた。
自分の想像を超える音と歓声に聴覚を奪われ、その振動が体を突き抜けていく。目の前のライトが乱反射して輝いて、熱気が肌に触れてじんわりと汗が出てくる。何もかもがめちゃくちゃな空間の中、ただはっきりと聞こえる「その声」だけが熱狂の中の道しるべのようだった。
ステージの上に立って歌う友達の姿は普段の落ち着きをなくし、音楽に溺れていた。溺れながらも真のある歌声が会場内に響き渡る。その声に応えるように熱狂達は大きくなっていく。完全に置いてきぼりになった丈はただ、その様子を眺めている事しかできなかった。
それが今の丈の限界だった。


ヤマトのライブに誘われたのは先月の事。バンドを寄せ集めてフェスを開催すると言った。とはいえ中学生バンドが金を寄せ集めて開くライブだ。会場もテレビで見るフェスに比べたら小さいものだが、ヤマトのバンドがかなり人気なのか、丈が会場に入った時には少しだけ入場制限が出来ていた。
ヤマトがバンド活動をしているのは知っていたが実際に見たことは全くない。ライブがあるたびに見に行ってるタケルに連れられるまま会場の中へ入った。会場の中は若い男女グループから特定のバンド(きっとヤマトのバンドだろう)を応援しているのを服装で表した女子達。自分より年下の子もいれば大人の人もいた。年齢や出身校もバラバラな人たちが「音楽」という共通点で集まっているのかと思うと驚きつつも少しだけ場違いな気がしてきた。
「丈さん。楽しみですね!」
「えっ、あぁ」
流石毎回通っているだけあるのか。この空気に馴染んでいるタケルは入り口で貰ったオレンジジュースを飲んでいた。丈は手を滑らせて零してしまいそうだったのでまだ引き換えていない。タケルに教えてもらって買ったマフラータオルをぎゅっと握りしめる。
「そんなに身構えれるのも今のうちですよ」
「え?」
目を見開いた丈の顔を見てタケルは得意げに笑った。
「兄さんのライブが始まったら、全部吹き飛んじゃいますから」