「ごぉじろぉ・・・」
「・・・何ですか」
「俺は、もう、ダメだぁ・・・」
もう5回も繰り返したこの会話に、光子郎はため息をつく。
どうしてですか?と聞くべきなのか。悩みつつも呆れつつ、酔いつぶれている太一を横目に散らかった部屋を着々と片付けていく。ゴミまみれの部屋の中で朝日を迎えるのを光子郎は慣れていても、太一はきっと嫌だろう。
太一の前に置いてあるビール缶を掴んだ光子郎の腕を、太一は強く握った。
「うわっ」
「聞けよ」
「何回も聞きましたって・・・進路の事でしょ?」
「・・・なぁんで知ってんだよ」
「だから何回も聞いてるんですってば。・・・手、離してください」
光子郎の声も聞くこともなければ、腕を掴んだまま顔を伏せて唸る太一はまるでダダをこねる子供の様。
「唸ってもダメです。あと、これ以上飲むのもダメです」
「はぁ!?」「声大きいです。近所迷惑」
やっと顔が上がった太一を睨みながらも強引に腕を離そうとするが、酔っ払いの馬鹿力に運動をしない光子郎が勝てるわけもなく、びくともしない腕に小さくため息をついた。
「そんなにため息、ついてるとよぉ・・・幸せにげちまうぞ」
「誰のせいでこんなことになってると思ってるんですか?」
「・・・しかたねぇなぁ」
「・・・太一さん?ちょっと、たいッ・・・うわぁっ!?」
腕がグッと容易く引き寄せられると、そのまま光子郎の体は太一の上に倒れ込んだ。ガシャンガシャン!と缶が散乱する音が響いても、光子郎が起き上がろうと足掻いても、太一は一向に手を離さない。
「た、い、ち、さんッ・・・!!!」
「そういうときはなぁ、こうだッ」
「ちょっ・・・ヒッ・・・フッ・・たいっ・・・アハハハハ!」
グッと腕を回され、光子郎は脇腹をくすぐられる。体をよじって抜け出そうにも倒れ込んだ場所が狭くて逃げることが出来ない。結局太一にされるがままに、光子郎の笑い声が真夜中の部屋に響いていく。
「たい、ちさん!ヒィ・・・ちょっと、まって・・・!」
「やだね」
「待って、ほんとに!たいちさんッ・・・!」
目を開くと薄暗い光がぼんやりと映った。
ガンガンと響くように痛む頭と体に眉を寄せながら、体に覆いかぶさった腕や足をどかして起き上がる。ベットと机の間で男2人が眠っているなんて、酔っぱらいにしても程がある。
目を覚ますために水を飲もうと踏み出した足にガシャン、と何かが当たる。それは空いたビール缶だった。そこから視界が段々と鮮明になっていくにつれて、おぞましく散らかった部屋が目に入る。信じられない視覚からの暴力を受けて目を細める光子郎の足元を、零れたビールが濡らしていく。
「・・・・・はぁ」
光子郎はまた、ため息をついた。