とけて、まざって

じゃん、けん、ぽん。

 ジリジリと照り付ける太陽から逃げるように木陰の下で、太一が唸っているのは蝉の声が頭の中でこだましているからではない。
「・・・・・・」
「もう一回、はないですよ」
「別にそんな事」
「言いそうな顔してるじゃないですか。ダメですからね」
光子郎は額の汗を腕で拭って木陰に置いてある2人の荷物を拾い、片方を太一に差し出す。無念にも握られた拳を睨みつけている太一の名前を呼ぶと、力なく解かれた手で荷物を受け取り、2人は歩き出した。
「俺の数少ないお小遣いが・・・」
「負けたから仕方ないですね」
「・・・なんかお前じゃんけん強いよな」
「太一さんが弱いんじゃないんですか?」
「んなことはねぇ。ヒカリに勝てる。ヤマトにも勝てる」

「二人だけじゃないですか。空さんは?ミミさんや、丈さん。タケルくんに「あーもう,うるせぇうるせぇ」

耳を塞いであーあー、と騒ぐ太一を他所に光子郎はコンビニに入っていく。冷房の効いた店内の空気が火照った体を一気に冷却していき、少し寒さを感じた。
追いかけるように太一もコンビニに入るとアイスコーナーへと向かう。
「どれにしようかなぁ」
棒アイスやカップアイスにモナカアイス、ソフトクリームなど色んなアイスがある中、光子郎はカップのバニラアイスを手に取った。色んなアイスに目移りしながらも太一はソーダ味の棒アイスを手に取ってレジに向かう。
自分のよりも安価なアイスを選んだ太一に「大丈夫なんですか?」と問いかけるが「俺はこれが好きなんだよ」と返ってきた。
コンビニから出ると生ぬるい空気に蝉の声、照り付ける太陽から逃げるようにコンビニの影になっているところへ移動する。
「ほい」
「ありがとうございます」
太一からアイスとスプーンを受け取って、ひと口掬って口に運ぶ。が、アイスが口の中に入る前に手首を掴まれて阻まれてしまった。
「太一さん」
「いいじゃん。ひと口ぐらい」
「最初の一口ぐらい、僕に下さいよ」
光子郎はぶつぶつ文句を言いながらも太一の方へスプーンを向ける。嬉しそうに最初の一口を食べる太一を見て無邪気な一面は昔から変わらないな、とぼんやり思いながら光子郎もアイスを食べた。バニラの甘さと冷たさが舌の上でじんわりと溶けていく。

「お前もいる?」
「いいんですか」
「さっきのお返し」
そう言ってアイスと1口食べると「ん」と顔を突き出した。何か理解できなかった光子郎の顔が数秒間の間が空いて、一気に赤くなる。

「何やってるんですか!」
「ふぉら、とけるぞ」
太一の舌の上で転がるアイスの妙な艶めかしさに、いや、太一の口元からあらぬことを考えて心臓がとび出そうになるのなるのを抑えるように口を閉じた。
あたりを見回すとコンビニに出入りする客がチラチラと見える。あちらからは2人の姿はあまり見えてないだろう。
「ッ」
睨みつけるように太一と目を合わしては、唇まで一気に持っていく。ふに、と柔らかい感触と鼻をかすめる太一の匂いに心拍数が上がる。
少しだけ開けられた口を強引に開けられ、冷たいアイスと舌の温度が流れ込んでくる。
なんだこれは、と思いながらも漏れそうになる息を堪え、アイスが全て入ったことを確認した瞬間に顔を離す。
だが、いつの間にか握られてた手首で遠くまで離れることは出来なかった。
何食わぬ顔で二口目を食べる太一を睨む光子郎の頬に汗が伝っていく。

「うめぇだろ?」
「・・・・・・ぬるいです」
「なんだそれ」
ハッ、と笑う太一の顔は呆れ半分嬉しさ半分だろうか。意地悪な男だと、なんでこんな人を、と今更ながら恨めしい。
そんな男のことが今も大好きな自分を馬鹿野郎と思いながらも、悪い気分がしない。
結局はどちらも大馬鹿野郎だと、口の中に転がるバニラアイスの甘さに浸った。