「寝てる・・・・」
のんびりとした平日の中、医者と宇宙飛行士を目指し多忙な毎日を送っていた2人の休みが久しぶりに被ったので、丈は一人暮らしをしているヤマトの家に遊びに行っていた。
お互いの近況報告をしながらついていたテレビを見ていたのだが、気づいたらヤマトはすぅ、と寝息を立てながら眠っていた。
無理もない。休みが被った、とはいえお互い半ば強引に予定を繰り上げてきたようなものだ。医者の道を目指す丈もなかなか忙しいが、この前まで何も決まっていなかったヤマトが宇宙飛行士の道を目指して奮闘している。最初からその道を目指していた者に比べたら間が大きく開いているため、その間を挽回するために寝る間も惜しんで人一倍、いや二倍以上頑張っているのだ。
こんなのんびりとした日を過ごしたから気が抜けたのだろう。今はゆっくり休ませてあげるべきだ、と丈はヤマトを起こすことなく見守っていた。
改めてヤマトの顔を見ると、やはり美人だ。サラサラとした金髪は太陽に照らされていつも以上に輝きを持ち、透き通った白い肌はより白さを増している。顔のパーツも配置も整っていてきれいだが、やはり寝顔はどこか幼さを感じる。
タケルの兄であり、みんなからも信頼され頼りにされるヤマトでも丈から見れば一つ年下の後輩。みんなの前では冷静に頼れる存在として振舞っていても、こういった一瞬のあどけなさに丈は愛おしく思う。
丈はヤマトを起こさぬよう、そっと手を握り、頬に触れる。連日徹夜ばかりしていると零していたというのに肌が荒れていないことを自分の肌と比較して軽くショックを受けてしまう。すべすべしていて綺麗な頬。少し押すとふに、と柔らかい。もうお酒を飲める大人だというのに、赤ちゃんのように見える。
そして、ほんの少しの興味だった。覗き込んだ顔をそのまま近づけ、ヤマトの唇に自分の唇をそっと触れさせる。距離が近くなることでヤマトの寝息が大きくなり、匂いも近くなる。ドキドキと高鳴り続ける心臓を抑え込みながら少しだけ離れた。こんなにも大胆なことをしているというのに、ヤマトはまだ目を覚まさない。少し荒くなった息をグッとこらえ、今度は確実に唇を重ね合わせる。抑え込んだ心臓の音が一気に大きくなり、めまいがしそうだ。だけれど、この瞬間に幸せを感じている自分がいる。
「なにやってんだ・・僕・・・」
そっと離れた時に我に返った丈は顔を赤くする。こんなの寝こみを襲ってるのと一緒じゃないか。いや、危うく襲いかけたと言った方が正しいのか。とりあえず、ヤマトが途中で起きなくてよかった。と安堵した。
ふと時計を見ると12時前、こうして遊びに行くときはいつもヤマトが料理を作ってくれる。だが、今日ぐらいは丈が作ることにした。ヤマトが寝ている間に作ってしまえば軽いサプライズもできる。
そう思って立ち上がった丈の腕が、誰かに掴まれる。
思わずビクッと体を揺らし、硬直する丈。誰か、なんて一人しかいない。
恐る恐る後ろを見ると、明らかに不機嫌な顔をしたヤマトが吊り上がった目で丈を睨んでいる。だが、その顔は耳まで真っ赤だった。
血の気が引く。とはこのことなのか。数分前の自分の行動を恨むしかない。
「お、おはよう・・・」
「・・・・・・・・・」
「えっ、と・・・・い、いつから?」
「・・・・・・・さっきから」
しどろもどろ質問をする丈に俯きながらボソリと呟くヤマト。さっき、っていつだ?キスをした時か。それとも、最初からなのか。気になるがそれどころではない。
「・・・・・かよ」
「えっ?」
必死に弁解を考えていた丈にヤマトが小さな声で何かを呟く。丈が聞き返すと俯いた顔がギッと睨みつける。怒られる、そう思った丈がごめん、と謝ろうとした時だった。
「もう、しないのかよ」
思いのよらない回答に丈は思わずポカン、としてしまう。目を見ると、どうやら本気のようだ。さっきまで血の気が引いてた顔が、今度は赤くなる。
「えっ、と・・・・・したいのかい?」
ヤマトは黙ったまま、ゆっくりと頷いて立ち上がる。距離が近くなり思わず後ろに下がりそうになった丈をグイッと引き寄せた。
「・・・ダメか?」
「ぅ・・・あー・・・・わ、わかった。わかったよ」
至近距離で見つめられては降参するしかない。
どうせ昼ご飯を理由にしても意味がないことぐらい、丈にはわかりきっていたことだった。